(文中敬称略)
奈良市は、昨年9月1日に市内業者数の3分の1に当たる建設・土木業の入札参加資格業者201社を2年間の指名停止にした。市民オンブズマンがこれら業者の談合によって、受けた損害を市が業者に賠償請求するよう求めた裁判で市が敗訴した結果、市は、判決で言渡された損害賠償額をそれぞれの業者に請求すると共にオンブズマンが請求したわけでもなく、裁判所が判示したわけでもない2年間という、それまでにはなかった長期の指名停止を併科した。この裁判の中で、市は、談合はなかったと主張し続けてきたにもかかわらず、一旦判決が出ると豹変して、損害は賠償せよ、2年間は公共工事に参加させないと、それまで市内業者育成の美名の下に入札実態を見てみぬふりして、業者の行為を増長させてきておいて、ここに来て突然、裁判所の判断以外の処分を負荷したのである。奈良市の指名停止は、奈良市の公共工事に関わるだけの措置ではない。県及びその他の市町村の公共工事のすべてについて同様の措置が取られ、かつ、信用の点から、民間工事も意のあるところは発注しなくなる。この2年間の間に相当の業者が廃業のやむなきに至るであろうと予測されているのも根拠のないことではない。さて、市長の行政運営をチェックし、その行き過ぎを是正するのが、議会の機能の一つである。では、その議会は、この件に関して、どのようにその機能を果たしたのであろうか。市長が指名停止を行なった9月1日、その属する月は、市議会の定例会が開催される月である。
さすがに多くの議員がこの厳しい指名停止に疑念を抱き、反対し、市長の真意を質す質問を繰り返し、結局、「本市登録業者の指名停止に関する申し入れ書」と題する2年間という期間の短縮を求めた文書を議長以下各会派幹事長連名のもと仲川市長に提出した。「○○の面に××」とは、このことである。さなきだに面妖(元庸ではない。)な市長、この申し入れ書に何の痛痒も感じず、議会の思いは、宙にさ迷う結果となった。さて、これではいけないと思った議会、次なる手は? 議会が議会としての意思を決定できるのは、本会議の議決によってしかない。そうなると、次なる一手は、次の12月定例会、ここで議会は、「本市登録業者の指名停止措置の軽減を求める決議」、先の「申入れ」という、単なる事実行為から、今度は「決議」という、法律行為に格上げして市長に翻意を促そうと画策したのである。さすが、この決議、効果があった。市長は、市の建設工事入札参加者等審査会に調査を託した。副市長をトップに外部委員を加え市の幹部職員らで構成するこの審査会は、今年5月28日に市長に対して指名停止期間の24ヶ月を半減し12ヶ月とすることが望ましいとの内容の報告書を提出したのである。以来2ヶ月余りが経過し、いよいよ、その12ヶ月が満了する8月末日が近づいてきているが、意固地になっているのか、はたまた、それ程大事な問題とは考えていないのか、仲川市長、先の報告書をどのように捉えているのか、一向に結論を出さず放置したままである。この仲川市長、発言がぶれるとの批判もあるが、一度、決めたことは誰がなんと言おうと変えないとの一見意思の固さを見せ付けるような評価をする向きもある。本題の2年間指名停止も以上に書いたように市民の代表である議会にも、わが部下やわが委嘱した委員らが作成した報告書にも逆らい厳として指名停止期間の軽減を考慮しようとしない。確かに市長は、市民の信託を得て就任したものであるから、年齢などは関係がないといえば関係はないであろうが、年齢の多寡は、人間としての経験の多寡に結びつく。そのような観点から、他人の意見を取捨選択して自ら省みる謙虚さも必要ではなかろうか。この2年間(変更前は、1年)という、最も厳しい指名停止は、従来、入札妨害罪で有罪となった場合にのみ適用されてきた経緯があるが、今回の件で裁判所は、「談合があったと推認できる。」として断定的判断を回避した。従って、誰一人として刑事訴追された者もいない。当局が捜査に着手したこともない。市長、熟慮の期間は、あとわずか。
併せて、議会の面々にも申し上げたい。市長に対して「申入れ」や「決議」を突きつけておきながら、後は、市長任せで済むのか。そのトップにある議長は、201社もの多数の土建会社の指名停止期間が短縮されなければ、わが受注機会が増えるから、議会をリードして期間短縮に積極的に動こうとしないのでは?との揶揄の声が巷にあることをお伝えしておこう。