(a@24)
世界遺産のあるこの奈良を愛する
人々からの提言
「閑古鳥 鳴くやシルキア 春うらら」

 市民の皆さんは、奈良市の施設でシルキアというのをご存知だろうか。

 かつて、バブル経済の終焉が近づきつつあったとき、今は、いずれも故人とな ったしまった時の奈良市トップの2名(とりわけ、辣腕の助役)がJR奈良駅周 辺の開発を強力に推進しようとしたことがあった。世界建築博覧会なる関係者に はヨダレの出そうなイベントがその中心となっていた。計画では、JR奈良駅周 辺の再開発地区を第1会場として、国際コンペなどで選ばれた建築家が設計した 建物群を展開するとともに、第2会場である、なら町地区の町並みの保存と活用 を図って、奈良の新旧のまちづくりの姿を世界に向けてアピールすることを目的 としたイベントであった。その第1会場であるJR奈良駅西側には、25の街区 に公共施設と民間施設とを合わせて、総工費約1,200億円の建造物が立ち並 ぶ予定であった。しかし、その後を引き継いだ当時の大川市長は、刻々と迫りく るバブル崩壊後の余波を受けて、財政状況が厳しく、また、企業の協力が期待で きなくなったことから、このイベントの中止を決断した。余談ではあるが、現在 、進められている遷都1,300年祭が、もうひとつ盛り上がりに欠け、イベン トらしさを発揮できずにいる現状を見るにつけ、世界建築博中止の決断は、英断 であったと評価できる。そして、博覧会開催の推進中に結局、「市民ホール=な ら100年会館」、「コミュニティ住宅」そして、当時三井ガーデンホテル奈良 などが入居した「JR奈良駅前再開発第一ビル」の三棟が建設されたのであった。

 全体計画からすれば、このわずかな建設実現で、十分にうま味を堪能した< 者もあったに違いない。さて、この三棟のうち、「JR奈良駅前再開発第一ビル 」の愛称が「シルキア ナラ」なのである。厳密に言えば、3階及びその上階は 、現在では「ホテル日航奈良」が賃借しているから、1階と2階がシルキア ナ ラということになる。

 さて、都市再開発法には、「商業床」という手法がある。これは、簡単に言え ば、再開発区域内の土地所有者から提供された土地を再開発事業完了後に区域内 に建設された商業施設の「床」を権利の高に応じて割り当てるのである。このビ ルは、概ね日本生命と地元三条町のかつての大地主が商業床を保有しており、日 本生命が保有する商業床は、ホテル日航奈良が借り受け、地元地主のそれをシル キアに入居する商人及び奈良市が賃借している。このように、商業床権利者は、 割り当てられた「床」を他に賃貸して、賃料を得るということになる。

 さて、「JR奈良駅前再開発第一ビル」平成10年4月のオープン時には、明 るい将来展望が開けているが如くに活況を呈していた。ところが、オープン以来 、時日を重ねて今や1・2階のシルキアは、閑古鳥のねぐらの如く陰惨で活気の ない場所となってしまったのである。三条町の地主とは、坪12,000円の賃 料(約2,000万円強/年)を払うことで、契約がスタートしたものの、商業 床賃借人の経営不振で賃料が減少し、その付けを奈良市に背負わせようと商業床 権利者であるかっての三条町大地主は、奈良市を攻め立てた。その結果、シルキ ア2階部分は、概ね奈良市の施設として、賃借することになったのである。

 一度、冒頭のところへ戻るが、世界建築博覧会なる奈良市の一般会計1年度分 の予算に匹敵するほどのビッグプロジェクトが、わずか、3棟しか建たなかった 、そのうちの1棟で結局、奈良市が尻拭いをしなければならなくなったのである スタート時坪12,000円のシルキア賃料、賃料値下げ要求に対する商業床権 利者のあくなき抵抗はあったものの、現在の賃料は、スタート時からすると7割 程度に下がっているという。しかし、市がわざわざ組織の一部をそこに持って行 ってまで、税で使用料を負担しなければならない実情、それが、桜満開の中、閑 古鳥がなくシルキアなのである。

 一歩足を踏み入れてみても、閉じられたスペースがいかに多いか、また、「テ ナント募集中」がいかに多いか。このまま、推移すれば、市の負担が更に増える ことが心配される。それは、とりもなおさず、市民の負担となるのである。 仲川市長は、事業仕分けで、このことをどのように評価したのか。